連載小説 第157回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品の営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、今は東京から海外市場をサポートしています。インターネット、IT機器、携帯電話など新しい技術や製品が日々生まれ、それらをサポートする我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)も大忙しですが、台湾や韓国などの新興勢力も台頭してきて、日本の電子デバイス業界は激変の連続でした。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第157話 事業部営業

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の25年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)の営業に携わっています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て東京勤務中。世界のIT産業はどんどん変化していくので、ビジネスも大忙し。我々の半導体の売上げも2000年にはサイコー!だったのですが、その後、状況はめまぐるしく動いていきます。電子デバイス営業本部にも毎日のように変化が起こり、とうとう液晶事業は分離され、各事業ともに大きな変化が

 

 

「これから、皆さんは各事業部へ振り分けられますので、その積りでいてください」

「ええっ?」

状況を知っている幹部以外の人たちは、殆どが「ええっ?」と思ったようです。それまで、電子デバイス営業本部は各デバイスの事業部からは独立した組織になっていて、それなりの自由度もあったのですが、2004年10月の組織変更によって解体され、それぞれの事業部の指揮下に入る事になりました。

それというのも、日本の電子デバイス産業全体に及んでいた事業再編の動きが大きく影響していました。

日本の液晶業界には顕著な動きが出始めていました。その一つとして、サイコーエジソン株式会社の液晶事業は、鳥取S社の液晶事業と合併して、スーパーエディソンディスプレイ社という独立会社に生まれ変わったのです。これに伴って、サイコーエジソン株式会社の半導体事業も水晶事業もそれぞれが新しい道を模索するようになっていきました。必然的に営業機能も各事業部に吸収される事となったのでした。

因みに、翌年には、水晶事業も、同業他社と合併して独立会社になります。

さて、半導体事業はどうなったかと申しますと、それなりの売上げを維持しつつ、サイコーエジソン株式会社の一事業部として存続し続けていきました。その頃の事業規模は1000億円のオーダーであり、揺れ動く日本の半導体産業の中で、小規模ながら、まだまだ結構頑張っているねえ、という感じでした。

さて、私がどの事業に振り分けられたかと申しますと、元々の出身母体である半導体事業部でした。半導体営業のオペレーションを統括する立場になったのです。で、同期のトム君はと申しますと、やはり、元々の出身母体の半導体事業部の営業部長(海外担当)という事になったのでした。国内市場担当の営業部長と、会社内の事業部を顧客とする担当部長がおり、3人の部長で営業部を構成したのですが、その中でも経験の長いトム君が筆頭部長という立場になりました。

あああ、これがトム君の試練の始まりだとは、その頃の私たちには予測できておりませんでしたねえ(涙)。トム君に限らず多くの半導体事業関係者にとっての試練でもあったのですが・・・。

ご存知のとおり、半導体事業は市場状況の荒波の中で、上に行ったり下に行ったりします。需給状態がプラスかマイナスかで、事業環境が180度変わる産業なのです。需要が供給を上回る時は、ほっておいても注文が積み重なって行くのですが、供給過多の状態になると、あっという間に受注は減少してしまいます。装置産業なので、稼働率が落ちると収益はとたんに悪くなります。需要が供給を上回ると、今度は、注文をさばききれず、顧客からの催促につぐ催促で、大変難しい調整の毎日になります。

2~4年程度のサイクルで上に行ったり下に行ったりするのですが、長い目で見ると、それ自体は大問題ではなく、本当の問題は、その間に次世代の技術開発、商品開発、市場開拓を連続的にできるかどうかです。

我がサイコーエジソン株式会社の半導体事業について言えば、2000年くらいまでは、PC、ネットワーク、携帯電話などの需要に支えられて、新たな商品を次々と生み出す事ができていました。ところが、そこから先は、思い切った設備投資ができなかった事などから、先端を行く技術開発、商品開発ができないままに事業を続けていく状態に陥っていきました。

90nm(ナノメーター)と言えば、どのくらいの長さに思われるでしょうか? 目に見えないくらいの長さです。髪の毛の太さが50μm(ミクロンメーター)くらいですから、その1000分の1のオーダーです。それが、その当時、我社でできる半導体線幅の技術でした。しかし、世界の技術革新はそれではとどまらず、もっと微細な加工ができるようになっていきました。それができないと、半導体の第一線ではなくなってしまうのです。

因みに、それから20年ほど経った今日この頃では、最先端技術は2nmなどと言われています。1980年代に世界一となった日本の半導体産業でしたが、その後凋落し続け、もはやこれまでかと思われる状況に陥っていくのです。

で、ですねえ。ところがです。最近になって、日本は国を挙げて巻き返しを図り、新規半導体メーカーを立ち上げるに至ったという状況をご存知の方も多いのではないでしょうか。

そうです、ラピダスです! 2nm以下の最先端ロジックIC等の製造を目指して、新工場を建設するなどの準備を進めています。そして、そこには国が1兆円規模の支援をする事になっています。以前では考えられないレベルの話です。

それくらいの設備投資と技術開発がなされないと、世界で戦っていけなくなるというのが、日進月歩の半導体ビジネスなのです。これからの時代もその技術開発は続いていくのでしょう。2nmなど昔の話となる日もそう遠くはないかも知れません。

で、ですねえ。ここで、更に注目しておかなければならない事があります。そもそも、半導体の構造そのものが全く変わるかも知れないという話も出ている事です。それも、日本企業が開発を進めておりまして、もしかしたら、スゴいイノベーションになるかも知れないのです。

どのように変わるかもですか? が関係しているようですが、そのあたりのお話は、またおいおいしていきたいと思います。何しろ、大河小説なので(笑)

ん? このお話って、日本の半導体産業の栄光と凋落を描く大河小説って事でしたよね。

でも、もしかして、日本半導体産業、まさかの復活劇あったりする?

 

第158話につづく

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