介護の隙間から(3) センサの分類

前回の予告のとおり、今回から装置としての「認知症老人徘徊感知機器」について調べていきますが、調べるにあたってポイントと考えるのが以下の2点です。

 

  1. どんなセンサを使って「徘徊」を感知するのか
  2. どんな無線を使って感知した「徘徊」をどう通知するのか

今回はそのうちセンサ部分の概略をおさえておきたいと思います。ざっと調べたところ、使用されているセンサは以下のようでした。

センサ何をセンス?設置場所など
マット介護対象者の方の体重がかからなくなったことベッド
フロア介護対象者の方の体重がかかったことベッドサイド、出入り口など
超音波超音波を反射/遮る物体が仕掛けた場所にあるか否かベッド、通路、出入り口など
赤外線(焦電型でない)赤外線を遮る物体が仕掛けた場所にあるか否か通路、出入り口など
焦電人体の発する熱通路、出入り口など
機械式スイッチドアの開閉出入り口など
無線(マイクロ波帯)ドップラー効果により呼吸や心拍による身体の動きを検出ベッドサイドなど
無線無線子機の電波が通信範囲にあるか否か通路、出入り口など

最初の2つ「マット」と「フロア」と呼ばれているセンサの呼称はこの業界独特なんじゃないかと思います。業界用語なのでそのまま使わせていただくことにいたします。どちらも、メカニカルな力(圧力)を検出するためのシート状の装置です。実際にどのような原理で検出しているのかは後で確認していきたいと思いますが、電気的には色々な方法で可能ですし、比較的安価な方法でセンスできるでしょう。センサ的にはほとんど同じもので良い筈ですが、2つ別々の言葉で呼ばれているのは、「トリガ条件」が異なるためです。「マット」と呼ばれているタイプは、ベッドの床に敷いて用いるタイプ。人がその上に寝ていて圧力がかかっているときは安定状態で、圧力が無くなると「起床した」ということでトリガをかけるタイプ。逆に「フロア」と呼ばれているタイプは、ベッドサイドの足を着くあたりとか、出入り口などに敷いておいて、その上に足を降ろして体重がかかるとトリガをかけるタイプです。どちらも「接触式」というべきでしょう。

それに対して残りのセンサの多くは「非接触」で人体の存在や動きを検出するタイプです。ベッドに寝ている状態に適用することを狙ったタイプもありますが、多くのタイプは通路や出入り口などに仕掛けて人間の存在や通過の検出をもってトリガをかける方式です。超音波センサは、距離的には数mくらいがせいぜいでしょうが、反射で距離を測ってなんらかの判断をすることもできるし、遮るものを検出することもできるかと思います。赤外線を使うものは、赤外線を光として扱って、物体が光を遮ることを検出し通路や出入り口の通過を見張るタイプと、人体から発する熱(赤外線)を検出してそこに誰かいる、と判断する焦電タイプの2つがあります。ある見えない「細い線」を見張る赤外線センサと、比較的広い範囲で人体の存在を検出できる焦電タイプという使いわけになるでしょうか。超音波や赤外線は素材や周囲の状態に影響を受けやすいのが難点かもしれません。また、出入り口に限ればドアや鍵にしかけた機械的スイッチのON/OFFで開閉を検出する方式も一種のセンサと言えます。

多くの場合、トリガの結果は無線で送られ、介護者には音や光で通知される、というのが定番なようです。無線がほぼ必須なので、無線自体をセンサ的に使い、対象の方に無線子機を持たせておいて(多分じゃまにならないところにバンドなどでつけておくのだと思います)、特定の無線親機の通信範囲内に居るか、居ないかで判断するタイプも存在します。他にユニークなものとして、マイクロ波のドップラー効果を使って物体の動きを検知するセンサーもあります。呼吸や脈拍まで測定できるので、こちらは非接触でもベッドサイドに設置するのが適しているでしょう。なお、このセンサは小電力無線の範疇になります。他に監視カメラ+画像処理などの方式もあるかとも思ったのですが、価格などの面からか画像処理などでの検出は一般的ではないようです。

こうして使われているセンサをざっと見てみると、基本的にセキュリティ分野やオフィスの管理などで古くから一般的に使用されているような方式なので技術的にはそれほど難しくはないように思えます。しかし、使用シーンを考えてみると、検出した結果として対応するのは介護する人。装置はただ知らせるだけですから、常時見張るという負担を取り除いているにすぎません。また、常に予想もしない事態が起こるのが介護の現場だと聞いています。何度も装置から「偽信号」が上がってしまうと、オオカミ少年効果で肝心なときに見過ごしたりすることも考えられます。実際には、物理的なセンシングの性能より、設置と運用の方にノウハウが必要な装置にも思えます。

次回は無線の方の分類について調べ、次々回からようやく実際の装置やそれを提供している会社などに調べを進めていく予定です。

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