介護の隙間から(2) 市場規模

前回、介護保険が摘要される電子デバイスらしいデバイスは「認知症老人徘徊感知機器」だけだ、と申し上げました。なにか、名前からはかなり特殊なデバイスにも思えるのですが、結局、センサと無線というキーワードでくくれる電子装置なので、「普通のIoT」デバイスと大差はありません。ただ、お相手がThingではなく人である、という大事な一点を忘れてはならないでしょう。調べてみるとなかなか興味深い装置なのですが、技術的な方向に行く前に、「市場規模」の大体のイメージを掴んでおきたいと思います。以下の表の数字は、厚生労働省の以下の報告から抽出させていただいたものです。

厚生労働省の平成28年度介護保険事業状況報告(年報)

以下の表で「介護保険第1号被保険者」というのは、65歳以上の前期高齢者、75歳以上の後期高齢者の方々の人数です。「後期」高齢者とは何だと怒った人を知っていますが、その話には深入りしますまい。

介護保険第1号被保険者3440万人
要介護(要支援)認定者632万人
サービス受給者560万人
居宅サービス受給者391万人
福祉用具貸与一人当たり給付費(1か月平均)12千円

このなかで実際に介護保険が適用となる「認定」を該当年度に受けた方の人数が632万人。「認定」は毎年行われる筈なので、この人数がほぼ実際に介護保険のサービスを利用できる人数となります。ただし、1か月単位で管理されているので、月の平均となると560万人です。今回、調査対象としている「認知症老人徘徊感知機器」は、「居宅サービス受給者」向けの「福祉用具貸与」のカテゴリに含まれるので、その人数と金額を記してあります。しかし、その全てが「認知症老人徘徊感知機器」の対象範囲ではありません。要介護2以上でないとこのデバイスは使えないことになっています。

区分認定者数割合
要介護2~要介護53,300,26852.2%
要支援1~要介護13,019,46247.8%

上の表を見ると、認定者数で330万人、約半分の人が要介護2以上となります。要介護2以上ということで、1件(一人の人が一つのサービスを1か月使えば1件とカウントされるのだと理解しています。間違っていたらご指摘ください。)あたりの費用を計算すると下のようになります。全区分で集計すると1万2千円くらいですが、要介護2以上と限ると単価が4千円ほど上昇していることが分かります。

要介護2~要介護5件数15,162,208件
要介護2~要介護5費用244,647,467千円
費用/件数16.1千円

しかし、この統計から分かるのはここまで。福祉器具の中で「認知症老人徘徊感知機器」がどれだけの割合なのかは分かりませんでした。ただ、手元にあるある会社の「介護用品カタログ」全90頁の中で、「認知症老人徘徊感知機器」に割り当てられていたページはたった1頁だけでした。主に頁が割かれているのはベッド関係、車椅子、トイレ/入浴などの支援用の用具です。このページ割合がそのまま市場規模だとは言いませんが、「認知症老人徘徊感知機器」の割合は高いとは思えません。福祉用具貸与の給付約2500億円(給付というからには自己負担分は含まれていない筈なので、実際の金額はこれより1割以上大きいと予想されます)のうち、1%としたら25億円。しかし、「認知症老人徘徊感知機器」の仕様をみると、実は「居宅」にいる人よりは「施設」にいる人向けではないのか、という感じもします。そうするとここに現れてくる数値よりは多くなりそうにも思えるのですが、残念ながら「施設」の利用者はこの統計にあらわれてきますが、「施設」が何を設置しているかは分かりません。いずれにせよ、ここに出てきた金額程度の市場に70社以上というのは、多分、大企業的には駄目な世界で、中小の出番、という感じも受けます。次回は、なかなかユニークな製品が多い「認知症老人徘徊感知機器」に迫っていきたいと思います。

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