部品屋根性(12)HM628128、炙ってみた

Joseph Halfmoon

さて別シリーズの「驚愕の一冊」に触発されて、早速、デバイスを1個「炙って」みました。炙ったのは約30年以上前の1MビットSRAM 日立製HM628128です。最近のチップは微細な上に、ウエファを削って厚みもヘロヘロになっているものが多いので上手く取り出せない恐れあり。しっかりした厚みのあるウエファであって、かつ、結構チップサイズのデカイ、立派なチップ、ということで選ばせていただきました。

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まず、偉大な啓示を与えてくれた御本のお名前とそれに関する投稿へのリンクです。

「揚げて炙ってわかるコンピュータのしくみ」秋田純一著、技術評論社

そこでは、PL2303のホンモノとニセモノのチップを炙って取り出して比較していたりして非常に興味深いです。

しかし、今回、こちらで炙ってみたのは、純正、

「日立製作所殿の」SRAM

であります。日立半導体が「赤ルネサス」(さらに時代は変わり、今は青ルネサス)になるなど予想もしえない「盤石だった」時代の製品でないかと思います。なぜこれかというと、ちょうど、ネット上で以下の論文を見つけられたためです。日立殿の技術を社内外に広報するための雑誌と思われる「日立評論」誌の以下のPDF記事であります。

日立評論1988年2月号:1MビットスタティックRAM”HM628128″

これのお陰で、「炙る」前に、チップの諸元が分かりました。

  • 0.8μm CMOS, 128kワードx8ビット スタティックRAM
  • チップサイズ 5.7mm x 14.4mm
  • 640万素子
  • メモリセルのサイズ 5.2×8.6μm
  • アルミ配線の線幅1.4μm、間隔0.8μm

チップサイズ 5.7mm x 14.4mm 、ここ一番のポイントですね。折角炙るので、あまり小さなチップだと悲しい。最近の主力CPU/GPUなどに比べたら控えめな大きさですが、かなり存在感のある大きさと言えましょう。

さて、日曜日の庭先、「ちょろ焼きくん」という草焼き用のバーナーで、60を数える間焼いてみました。101、102っとくら(100つけて数を唱えると大体1秒になるという経験則。)多分、大体1分くらい。哀れプラスティックDIPは灼熱に赤く輝いています。ほとんど煙もでず、赤く輝くばかりです。しかし、バーナー止めると真っ黒だったパッケージ表面は白く灰となっているようでした。

『真っ白に燃え尽きたHM628128』がこちら。

HM628128_Burned Out

とは言え、白いのは表面だけで、内部はしっかり黒いです。炭化しているみたい。粉塵を吸い込まないように、換気のよい場所でマスクして作業をいたします。御本では「ピンセットで崩す」ように書かれていました。実際ピンセットでひっかくと細かい真っ黒な粉塵と化していくのですが、作業がはかどらない。10回程引っ掻いて、その先の工程の長さに恐れをいたきました。

リューター

を取り出しました。最初、なるべく「優しく」扱うべく、仕上げ用の目の細かいビットを使ってみましたが、それではビットが減るばかりではかどりません。腹をくくって、そこそこの粗目のビットで削りだすと面白いように削れます。しかし、細かい粉が酷いです。注意。

チップの外形と埋まっている筈のリードフレームを頭の中に思い描きながら、削っていくと、チップ表面のパッシベーション層のお陰か、数mmほどの破片がポロっと剥がれました。突如、真っ黒な粉の中に銀色の表面が輝きます。感動。後はチップ表面をなるべく傷つけないようにビットを動かしていくだけです(後でみると、何か所か傷つけてしまっていましたが。)

アイキャッチ画像に掲げましたるチップのご登場

リードフレームも思い描いたような感じのものが大体彫り出せました。ただ、側面の短いところは、ちょっとビットの先があたると外れてしまいます。ましてやボンディングワイヤなどを綺麗に掘り起こすことなど無理ですね。ただ、写真をよくみるとワイヤらしきものが千切れているのが何本か見つかります。金色に輝いていたので金線でしょう。昔、ドイツ人の組み立て屋さんが「ボンディング・マシンのあの匂いがたまらねえ」などと呟くのを聞いていましたが、私は組みたて屋さんではないので、そういうフェチな趣味はありませぬ。せいぜい、新人のころ、ボンディング・ダイアグラムを定規で手書きで書いていた記憶がよみがえります。ワイヤの長さ、角度、隣同士のワイヤの距離などのルール(ボンディング・マシンの制約)があって、それに抵触しないように配線できるようにパッド位置を決めてました(フル・カスタム・チップだったので。)

さて、手元にはまともな顕微鏡がありませんが、『モドキ』がPCにぶら下がっています。表面実装の小型デバイスなどを観察できる程度の倍率。

HM628128 Roasted銀色に輝くチップ表面は照明が難しく、うまく識別できるように撮れたのはただでさえ狭い視野の左半分くらいです。とても最小線幅のメタルは識別できないですが、よく見れば周辺の太いメタル配線や大きな構造くらいは分かります。メモリアレイの構造、センスアンプ部かと思われる構造、チップの制御回路と思われる構造などが見えています。

日立評論の論文に掲げられている「図5 HM628128のチップ写真」からすると右下のスミッコあたりではないかと想像されます。

『炙り』意外と簡単。

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