連載小説 第43回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。わけあって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。同期の工作君とトム君も一緒に毎日忙しくやっています。しかし、食生活の変化が体重の変化へと繋がり、大変なことに。

 

第43話 あの時、携帯電話があったなら・・・

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社で10年になろうとしています。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任しました。しかも、同期の富夢まりお君も島工作君も一緒で、何てステキ!と思いきや、思わぬ落とし穴が・・・。だって美味しいレストランが多すぎて、私の見事な(笑)肉体にも水平方向成長化という由々しき異変がおこり、偶然再会した“青井の君”には私だと認識してもらえない事態に・・・。

 

私の同期の工作君はイケメンですが、仕事もバッチリできて、同期ながら尊敬する存在です。もう一人の同期のトム君はややイケメンで、仕事はあたりはずれがありますがまあまあできて、明るいオトボケ君で、同期ながらあきれる存在です(笑)。どっちがいいかと言われても、ふたりとも夫です。あ、私のじゃなくて、別の可愛い方々の夫さんです。という訳で、ちょっと私は淋しいのですが、32歳の私としては、別の彼氏を見つけるしかないのでした。

で、最近偶然レストラン「江戸は東京」で再会した青井の君(本名青井倫吾郎さん)ですが、同期の二人と比べるのは筋違いかなと思いつつも、ちょっと比べてしまう訳です。青井の君は私の母の同級生の次男さんで、クパチーノにあるアップルに現地採用されて働いています。おん年34歳と思います。因みに独身でいらっしゃいます。因みに、などという場面ではありませんでした。超重要情報ですが、独身でいらっしゃいます。今、彼女がいるかどうかなどの情報はありません。

イケメンです。

「葵の君」は可愛い女性だと源氏さんが仰っていますが、私の「青井の君」は男性です。ま、いいです。

その青井の君から電話が入ったのは、とある午後の事でした。どこでどうお調べになったのか、SS-Systemsの代表番号へ電話していらっしゃって、“May I speak to Maiko Yonbito, please.”と仰ったそうなのでございます。交換兼受付のシャロンおばさんから私の内線へトゥルルルが入ったのはとある1990年の午後の事でした。

“You’ve got a phone call form Ringo of Apple Computer, Maiko.”

“Ringo ?”

“Yeah, he said Ringo. Would you like to speak to him ?”

“OK, I will, anyway. Thanks, Sharon.”

 

この頃の電話システムはかなり現代とは異なります。大抵は会社で一つの電話番号をもち、それぞれの部署や人に対しては内線番号が付与され、外部からかかってきた電話はいったん社内の電話交換係の方が受けてから、内線へ繋ぐという仕組みです。PBX(Private Branch eXchange)と呼ばれるシステムが広く使われていました。また、今では電話のオペレーターという仕事はほぼなくなりましたが、当時はそれも重要な仕事だったのです。

私は、アップルのRingoって誰? もしやもしやの青井の君?と期待しつつ、電話にでました。

“Hello, this is Maiko speaking.”

「ああ、舞衣子さん!」

「え、Ringoってやっぱり倫吾郎さんですか?」

「ええ、こっちではRingo Aoiなんですよ」

「よく分かりましたね。こちらの番号」

「そりゃ、簡単ですよ。SS-Systemsって言ってたから」

「あ、そうですよね。イエローブックにだって載ってますしね」

「ええ、そうなんです。それで、この前のお詫びを言っておかなくっちゃと思ってお電話差し上げました」

「あ、いえ、お詫びを言わなくてはいけないのは私の方です。失礼な事を言ってしまったと、あの夜落ち込みました」

「そんなあ、落ち込むだなんて。こちらが申し訳ない事をしてしまったので、一度きちんと謝らなくてはと思っていたんです」

「それは、ご丁寧にありがとうございます」

「それでですね、舞衣子さん」

「はい」

「もし、ご都合つくようでしたら、一度ディナーをご馳走させて頂けないかと思いまして」

「え、あの、ディナーですか? あの私にとってちょっと危険な・・・」

「は? 危険ですか?」

「あ、はい、少々危険ではあります」

「そうですか、危険と思われますか」

「いや、あの、倫吾郎さんが危険という事ではなくて、あの」

「じゃあ、何が危険なのでしょうか?」

「ですので、私にとってディナーというのはすこぶる魅力的なだけに、すこぶる危険なので」

「すこぶる危険?」

「はい」

「という事は、OKして頂けないと?」

「いえ、そんな事はございません!」

「そんな事はない?」

「OKです!」

「OK?」

「はい、頂きます、ディナー!ご一緒させて頂きます、ディナー!」

「そうですか(笑)。それなら良かったです、舞衣子さん」

「ありがとうございます、倫吾郎さん」

「では、今度ディナーをご馳走させて頂きます(笑)」

「はい」

 

ツーツーツー・・・・・

 

「あの、倫吾郎さん? もしもし? Hello Hello?」

 

ツーツーツー・・・・・・

 

「え、切れました?」

 

ツーツーツー・・・・・・・

 

あらら、どうした事でしょう。電話が切れていました。日時場所のお約束もないまま、ツーツーツーと電話がむなしく響きます。

何故か、それっきり、青井の君からは電話がかかってきませんでした。何か事情があるのでしょうか?

私は思い切ってコールバックする事にしました。思い切ってという程の話じゃないと思うかも知れませんが、青井さんがどのサイトのどの部署にいるかをキチンと聞いてなかったので、思い切らなければいけなかったのです。Appleはこの頃既に大企業で、どの事業部だとか部署だとかかなり正確に分からないと、Ringo Aoi ? どこのRingoだ? という事になって、結構大変な事になってしまう可能性があり、いきおい躊躇してしまったからです。

私の勤務しているSS-Systemsはその当時は50人にも満たない人数でしたので、名前さえ分かれば繋がったのですが、大企業はそうではありませんでした。

1990年の事です。携帯電話なる物はまだ一般に普及しておらず、人と人の繋がり方には21世紀と大きな違いがあった頃です。

そう言えば、トム君も工作君も言ってました。「いやあ、彼女に電話する時ってさあ、すげー緊張すんだよね。だって、オヤジさんが出ちゃうかもしんないんだぜ。あせるよなあ、あれ」 ってな調子で、携帯電話以前の世代には“女子への電話あるある” だったそうです。

同様に、部署の分からない個人宛てに電話をかけるには少々ハードルが高かった時代でした。

結局、私からの電話は青井の君に到達できませんでした。

そして、待てど暮らせど、青井さんからは電話がかかって来ず、「ぜひご一緒しましょう」 と言ったディナーも、いつどこで何を頂くかの話にはまるで到達しないまま、時は過ぎて行ったのでした。

私って青井の君とすれ違う運命?

 

 

 

この続きはまた次回ということで・・・。

って続きはあるの???

 

 

 

第44話につづく

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