連載小説 第138回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICの営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、日本勤務中です。とうとう21世紀を迎えました。我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)、そして日本の産業はどうなっていくのでしょうか。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第138話 同時多発テロ

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の21年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)を販売しています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て日本へ帰任しました。家族は3人一緒でラブラブですよ。うふっ。世界はITバブルの真っ盛り。半導体の売上げもサイコー!・・・だったのですが・・・。

 

「おい、大変なことになってるよ、舞衣子!」

家へ帰ったところで、倫ちゃんが叫んでいました。

忘れもしない、2001年9月11日火曜日 ニューヨークは朝、日本は夜の時間帯でした。ワールドトレードセンターがハイジャックされた民間航空機によって体当たりされたというのです。テレビのニュースで見たその映像はまるで架空の出来事のようで、現実にこんなことが起こっているとはすぐに信じる事ができない光景でした。

アメリカ同時多発テロ事件と呼ばれたこの恐ろしい出来事は世の中を震撼させました。ワールドトレードセンターだけでなく、ペンタゴンや首都ワシントンDCまでが標的とされたようです。ペンタゴンは一部損壊を受けましたが、ワシントンDCを狙ったUA093便はいったんハイジャックされた後、ハイジャックの目的を自爆テロと認識した乗客たちが奪還に乗り出し、結果、首都に被害は及びませんでしたが、途中墜落する事になったそうです。

このテロ事件によって、約3000名の命が奪われました。日本人も24名が犠牲になったそうです。

そもそも、何故このようなテロが発生したのか紐解いていくと、大雑把に言えば、アメリカの中東政策に反発したイスラム過激派テロ組織アルカイダのウサーマ・ビン・ラーディンがテロ攻撃を考え、指示して実行に移したという事です。

長い歴史の中で、宗教上の対立によって様々な争いが繰り返されてきましたが、戦争やテロは正当化されるものではありません。苦しめられるのは一般人です。誰も殺し合いなど望んでいません。一部の過激な人間や、欲に目がくらんだ愚者によって戦争やテロは引き起こされます。人が犠牲になる事を何とも思わないような者は、目を覚ましてください。

「倫ちゃん、私たちが住んでいたアメリカでこんな事が起きてしまうなんて辛いよ」

「ああ、僕もニューヨークには何回も行ったし、そのマンハッタンの高層ビルに飛行機が激突してそれが粉々に崩壊するなんて、想像できないよ」

「なんで、こんな事をするの? 何の罪もない人たちが犠牲になっちゃうってどういう事?」

「みんな、だた普通に仕事して、普通に生きてるだけなのになあ」

ワールドトレードセンターはツインタワーで、その両方が別々の飛行機によって激突されました。ビルは1時間程経って崩壊する事になります。その間に運の良かった人々は非常階段などを使って逃げたのですが、逃げ遅れた人たちはビルの崩壊に巻き込まれ、その多くは命を落とす事になりました。

罪のない犠牲者に想いを馳せる事は当然のことでしょうが、この事件はその情緒的な側面だけで片付く事ではありません。そもそもアメリカが何故中東でイスラエルを支持し、レバノンなどイスラム世界の国々に軍事行動を取る事になったのか。また、このテロ事件を契機にジョージ・W・ブッシュ大統領が支持率を急激に上げ、報復の暴力を正当化したあげく、アフガニスタン侵攻を断行し、2年後にはイラク戦争を引き起こすにまで至ってしまったのか、考えれば考えるほど、大国の暴走には恐ろしさを感じます。

遡れば、ベトナム戦争、朝鮮戦争など、そうしなくて良かったと思われる戦争を数々行ってきたのが軍事大国です。更に遡れば、日本もしなくていい戦争を数限りなく行ってきました。

戦争の悲惨さを知るたびに、人類の愚かさを感じざるを得ません。戦争やテロ以外の解決策はないのでしょうか。或いは、暴走しそうな一部の愚者を止める手立てはないのでしょうか。

暴力の連鎖は今日にまで繋がっています。ロシアによるウクライナ軍事侵攻も多くの犠牲者を生むだけで何の利益も生んでいません。何故、この不毛な戦争を止める事ができないのでしょうか。

ホモ・サピエンスという生き物は不思議な生き物です。助け合う事に喜びを感じたり、後先かえりみず戦う事に心血を注いだり、他の人が被害を受ける事に無関心だったり、或いは心を痛めたり、将来のために地球環境を守ろうと思ったり、今が良ければそれでいいと思ったり、なのです。

「ねえ、倫ちゃん、うちの子どもが大きくなった時、世界は平和かなあ?」

「そう願うけど、日本は終戦以降、ずっと、戦争とはほぼ無縁の平和を享受してきたから、ボケてるかもなあ」

「せめて、地球が壊れないで、人類に滅亡の危機が訪れていない事を願うよ、わたし」

「ああ、ぼくもそうだ。次の世代の事を考えたら、これでいいはずないものな」

「こんなテロ事件が起こって悲しいけど、自分たちは自分たちにできる事をしていかなくちゃね、倫ちゃん」

「そうだな、舞衣子」

その夜、遅くまでニュースを見た後、私は倫ちゃんとそんな話をしていました。

 

 

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