連載小説 第149回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品の営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、今は東京から海外市場をサポートしています。インターネット、IT機器、携帯電話など新しい技術や製品が日々生まれ、それらをサポートする我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)も大忙しですが、台湾や韓国などの新興勢力も台頭してきて、日本の電子デバイス業界も大きな影響を受けていました。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第149話 新規営業部門立ち上げます

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の24年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)の営業に携わっています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て東京勤務中。世界のIT産業はどんどん変化していくので、ビジネスも大忙し。我々の半導体の売上げも2000年にはサイコー!だったのですが、その後、状況は変化していきました。もう2003年です。市場はどんどん動いていくのでした。

 

「それでは、9月度の部門長会議を始めます」

電子デバイス営業本部の部門長会議が始まりました。私は海外営業部の部長ではないのですが、オペレーションを統括する立場として、部門長会議にはオブザーバー的に参加させてもらっているのでした。女性登用を促進するという世間のトレンドに乗り遅れまいという意図も見え隠れしていましたが。

まあ、それはさておいて、本部長から組織変更の示達がありました。

「これまで、地域を統括する営業部の組織でやってきましたが、ここで、営業本部を新たな組織に改革します」

へえ、何だろう、と思って聞いていると、

「時代は刻一刻と変わっていきます。我々もその波に遅れてはいけません。むしろ、一歩先取りをする動きをかけていく必要があります。そこで、新たに、アプリケーションに特化した営業部門を発足させる事にしました。今後、他のアプリケーションについても、更に新部門の設立を視野に入れていますが、今回は二つの部門を新設します」

おお、そうであったのですか、どんな分野をターゲットに考えているのでしょうか、と期待しながら聞いていると、

「今回の目玉は、二つのマーケットです。一つ目は携帯電話です」

おお、それはそれは、もっともですねえ、と思って回りを見回すと、誰もが、それはそうだ、という表情で頷いていました。

「皆、知っての通り、我々の電子デバイスの売上げは携帯電話向けが50%以上と群を抜いています。この市場で、更に我々の強みを発揮していくために、携帯電話向けは国内外仕向先に関係なく一つの営業部門で扱っていく事にしました」

携帯電話市場は、ものすごいスピードで動いていて、競争がもっとも激しい市場の一つでした。我々の電子デバイスの中では、特に液晶表示体事業が売上げの70%を携帯電話に依存していたので、それを一つの営業部門で統括して扱う事には大きなメリットがあると考えられました。

そうなると、もう一つの目玉は何かな? IT市場かな? などと思っていると、

「そして、もう一つの目玉市場は・・・、どぅるるるるるううう(ドラムロールの音っぽい口まね)」

え、そんな大げさ? と思っていると、本部長はドラムロールをやめて言いました。

「じゃ、皆さん、あててみてください」

「え?」

「え?」

「そういう?」

というような反応がメンバーからありまして、

「ま、いいや、言っちゃいましょう。それは~?それは~? そうです、カーエレクトロニクス分野です」

え、カーエレ? なるほど、そこへ来たか、と思って回りを見渡すと、みんな、はは~ん?みたいな顔をしています。ん?あまり納得していない感じ? という雰囲気です。

まあ、想像するに、カーエレクトロニクス分野と言っても、現時点では大した売上げはなく、携帯電話に比べたら月とスッポン、売上げ金額は二つ三つ桁が違うので、それを一部門にできるの?というような印象を部門長たちは持っているのでしょう。これまでの営業部門は地域で分けられていて、それなりの売上げがないと一部門にはならなかったので、そう感じるのも無理はなかったかも知れません。

また、段々と市場開拓は進むのかも知れませんが、車載用途で我々の電子デバイスの強みはあるのかなあ、競合に勝てるのかなあ? という事を出席している部門長たちは懸念しているのではないかと感じました。

「皆さん、カーエレ分野における我々の売上げがまだまだ小さいのは承知の通りです。しかし、車はこれからどんどん電子化が進み、この市場における電子デバイスは益々必要性を増していくのです。今のうちに我々は手を打って車載市場に入り込んでいくのです」

ま、それはそうだな、と思って回りを見回すと、頷く人が少々増えたように見えました。

「それでは、その二つの部門を担当して貰う人を発表します。まず、携帯電話営業部は島工作君です」

「おお」

「なるほど」

という皆さんの心の声が聞こえてきたようでした。私も、「国内外で顧客数も多いし、すっごい大変だろうけど、工作君なら相応しいよね」と思って聞いていました。となるとカーエレは誰?と思っていると、

「もう一つのカーエレクトロニクス営業部は、富夢まりお君にやってもらいます」

あ、そういう事?そっか、そっか、そうだったのか。謎が解けた感じでした。考えてみれば、トヨタのお膝元でもある名古屋で頑張ってるんだから、それはありです。でも、携帯電話とは180度違って、まだまだ売上げが小さい車載分野で、トム君大丈夫かな?と少し心配にもなったのでした。

でも、奇しくも、私の大好きな同期二人が、新設部門を担当する事になったのです。これはもう、3人でカンパ~イしかないじゃん、と思ってトム君の方を見ると、彼は一応神妙に本部長のお話を聞いている風にしながら、私にサインを送ってきていました。

「ん?なになに?トム君」

「今晩あいてるか、舞衣子?」

「うん、あいてるよ、工作君と3人で飲みにいくんでしょ?」

「おお、さすが、よく分かったな」

「分かるよ、そんくらい」

「じゃ、工作に聞いてみるから、そのつもりでいてくれ」

「オッケー」

とう会話をサインでやりとりしたというのはウソです(笑)

大体、そんな感じで思ってるんじゃないかな、という想像でしたが、部門長会議が終わって、トム君と会話をしたところ、ほぼ合っていたのでした。

さ~て、今日はさっさと切り上げて、ビール飲もっと。

この続きはまた次回です。

 

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