バイタルセンシング(1) 脈拍を測るセンサ

昨日、介護テーマで非接触のバイタルセンサで呼吸や脈拍がとれるぞ、と書かせていただきました。書きながら、脈拍を測定する方法、今書いている方法以外にも、結構いろいろあるよな~、と思い出していました。そこで本日は、介護からは離れて脈拍をとるためのセンサを取り上げます。ただし、大人のお約束ということで、取り上げるのは一般消費者が購入できるようなタイプといたしました。

以下に思い付くまま4種類を表にいたしました。これ以外にも調べるといろいろ出てくるのです(皆さんの「脈をとる」ことに対する熱意には感心するばかりです)が、私の勝手な意見でまあまあ一般的じゃないか、というものを列挙させていただきました。

センサマイクロフォンLED+フォトセンサ電圧センサ非接触バイタルセンサ
何を測るか血管音脈拍に対応する身体の組織の色の変化心電静脈流(体表)
応用例血圧計など携帯型の脈拍計(スポーツ向け含む)携帯型の脈拍計(スポーツ向け含む)見守り機器

人が人の「脈をとる」場合、指で相手の動脈のあるあたりに触れて、その鼓動、振動というか、をとりますな。あるいは、胸に耳を当てて心臓の鼓動を聞くかもしれません。この振動というか、音をとる、というのが誰でも思いつく第一の方法ですね。これを装置にした代表例が「血圧計」じゃないかと思います。センサは音を拾うのでマイクロフォン(最近では高精度の圧力センサも手に入るので圧力センサというチョイスもあります)です。源流は20世紀も相当昔の技術だと思います。血圧を測る場合、腕の血管を圧迫し、血流を止めたり再開したりする必要がある(詳しくは『コロトコフ音』で検索!)ので、マイクロフォンは腕に巻き付けて空気を送り込んで圧力をかける「カフ」に接続するような形態になっている筈なので表からは見えませんが。

次にLEDから出た光を身体に当て、戻ってきた光をフォトトランジスタやフォトダイオードなどで拾って脈拍をとる、という方法があります。これまた別投稿のSiLabs社がこの用途の専用ICを「センサ」として販売していました。酸素の多い動脈血は鮮やかな赤で、静脈血は黒っぽい、それが脈拍とともに変動しながら血管を流れていくので測定すれば戻ってくる光の強さや色の変化から脈拍が分かる筈。ここでどんな波長の光を使うのかにも目的により一長一短あるようです。外乱光が入る心配のある装置形状なのか、完全に囲えるのか、測定する部位が指なのか、耳タブなのか、腕なのかなど、微妙な匙加減があるようです。また、このタイプは原理的に脈だけでなく、血中の酸素濃度の計測とも通じます(大人のお約束からはちょっと外れますが)。一般的なコンシュマー応用では、スポーツする人、特に長距離ランナー(市民ランナーの市場はそこそこ大きい)など向けの「デバイス」にも適します。このようなケースでは、じっと静かにしているときの測定とは異なり、身体は動きまくり腕をぶんぶん振ることになるので、そのような変動に対する補正をどうするのかがポイントになったりもします。

同じようなスポーツ向けでは、胸にベルトを着けるタイプも存在します。胸のベルトには2か所に電極がついています。ちょうど心臓を挟んで2か所の皮膚の電位を測るのです。まさに心電図(ECG)の波形を直接計測するわけです。これも大人のお約束で心電らしい波形をとることが目的でないので、パルス波形から脈拍が計算できれば一般消費者向けの応用では十分です。勿論、心臓の両側の電位はそんな何ボルトといったスマホが充電できるような電圧が現れるわけではありません。μV単位で測るような微妙な電圧です。微小な信号なので、ノイズも入りやすい中、かなり大きな増幅率で増幅してあげないとなりません。皮膚が乾いている人だと、電極と皮膚との間の抵抗が大きすぎて測れないなどということもあります。その時は伝導率がよくなるように水分が必要です。ちょうど、走り回って汗をかいたりすると良い塩梅でコンタクトが取れるようになったりします。また、相手は人間です、個人差も大きいですが、同じ人でも状態は随分変わります。出てくる信号のダイナミックレンジが大きくなるのも生体計測の通例です。小さい信号を大きく増幅するだけではいけないわけです。なお、胸につけるセンサなら、電池で動いていて、電気的には「浮いている」状態なので、以下の問題は生じません。が、交流電源につながっているような装置で身体に電極をつなげるものは電源系と測定系の間を「絶縁」し、なおかつ、数千ボルトといったパルスが交流電源側にかかっても大丈夫なようにしておかないとマズイです。雷さまは直撃しなくても大きなパルスを交流電源側に送り込んでくるので、そのパルスがそのまま電極に加わると「死にます」。聞いた話では、昔この手の装置を研究していた人が犠牲になったらしいです。この件裏はとってないです。しかし、この「絶縁」も大人のお約束の一つであります。「絶縁しながら、電力を送り込む」という部品も電子デバイス商売の重要アイテムではありますが。

そして最後にあげたのが、昨日とりあげさせたいただいた「特小無線」の一種である、無線のドップラー効果を使った非接触のバイタルセンサです。これについては、以下の投稿をご覧ください。まだまだ他にも「脈をとる」方法があるので、機会があったらさらに調べたいと思います。

非接触のバイタルセンサの件に戻る