Literature watch returns(2)進化するSDR連載 その2 トラ技、CQ出版

前回、「再度の」SDR=Software Defined Radio(IMFの特別引き出し権ではありません)連載がCQ出版、トラ技で始まったということで取り上げさせていただいたのでした。それから3カ月あまり。連載続いています、こちらもちゃんと読ませていただいております。前回は、11月、12月、1月の3カ月分だったのですが、今回は2月、3月、4月についてネタばれにならない程度にふれさせていただきたいと思います。

大体、アナログも無線も得意でない人間にはトラ技2月号の

第4回 SN比104dB! プレシジョンDUCシグナル・ジェネレータの制作 高純度ステレオ変調波の生成と自動測定ができる

は、噛み応えある、というよりありすぎな内容でしたね。FM用のSDR受信機を制作する連載なのですが、今回作っているのは、SDR受信機をテストするための信号発生器なのです。信号発生器(シグナル・ジェネレータ)くらい買えばいいじゃん、と思うのですが、対象のSDR受信機の性能は某メーカ製の信号発生器の性能を上回ってしまっておる、と。対象よりも性能の高い測定ツールがなければ評価はできないですから、そこから作る必要があったようです。恐るべし。ただ、この手のツール、作るのが異常に好きな人、いらっしゃいますね。多分、これ書いている林さんもきっと。

そのうえ設計は、DUC=Digital Up-Converterです。連載はSDRといっても受信機なので、送信機は対象にしていないですが、ここにはちゃんと送信要素があるわけです。さらっと1回で書いてあるわりには読み応えありすぎでした。個人的にはコラム

モノラル受信機でもステレオ受信機でも楽しめるFM放送の賢いしかけ

くらいが気楽に読めて楽しめましたが。

さてトラ技3月号の

第5回アナログ・フロントエンドとダウン・サンプリングA-D変換

は、アナログも無線も駄目な私にはもっとキツかったですね。だってSDR本体のデジタルに入る直前の純然たるアナログ部分です(連載開始5カ月でまだ本体のデジタル部に入っていないということですが)。とても勉強にはなるんであります。MATLABでデジタルなところばかり計算しているのとは大違い。しかしここには、後のデジタル部分での処理に直結する大事な準備が仕込まれていました。なにせ、今回のSDR受信機、

アンダーサンプリング

です。教科書には信号をサンプリングするときは、その倍の周波数でサンプリングせよ、と書いてあります。今回は受信するのがFMラジオ(特に海外での周波数帯まで考えると日本より広い)ですから、倍ともなるとサンプリング周波数は200MHzを超える。私なんぞが考えたら、教科書通りの高い周波数のA/Dを買うしかない!となってしまうのでありますが、そんな勿体ないことはしないのですね。

信号の帯域幅が狭いなら、キャリアの周波数の倍より低い周波数でサンプリングしてもやれる

ということです。よく考えてみると標本化定理に逆らっているわけではなく、必要なのはキャリアに乗っている信号で、キャリアそのものは不要なのでこんなことができるのですな。しかしこの準備のためにアナログのバンドパスフィルタが活躍します。こういうものがさらっと設計できるように見えるところはとてもついていけません。(1箇所本文から引用すると『図1に示したアナログ・フロントエンドのブロック図では、1つのBPFをRFアンプの後段に配置するように簡略化して表しました』とありますが、図1みるとRFアンプの前後にBPFが入っていますぜ。これはタイポ?私が何か誤解している?)

いよいよとトラ技4月号は、

第6回 高速アンチエイリアシング・フィルタ「CIC」の基礎

です。無線業界の人がCICフィルタといったら、林さんが過去に書かれた資料を参考資料に持っくるくらい、CICの権威(権化)の林さんです。今回はそのCICフィルタの設計についてかなり入れ込んだ内容の記事になっています。(でも、「基礎」といいつつ、過去の記事読んでから読んだ方が分かるかも。)図9のフィルタの特性のグラフがキモで、左側のグラフはCICフィルタを作ると「いつも」見えるグラフ(どうせ、MATLABなどで計算するのだから自分で描くわけじゃないんですが)、そこに書かれた網かけだけでも、CICフィルタと後段のFIRフィルタの役割分担が腑に落ちるというもの。しかし、今回本当に取得すべきは、これを出力側から眺めて描いた右のグラフでしょう。

右のグラフの描き方を理解したら、きっとCICフイルタの設計理解できる

に違いないとは思うのですけれど、うーむ良く分かりません。死ぬ前には理解したいものですが。

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