介護の隙間から(34) 交通安全、立場の違い、対策の差

交通安全は、年齢に関係ありませんが、身体機能や認知機能の低下している高齢者の場合には特に注意が必要なようです。実際、交通事故の死者数は年々減少しているけれども高齢者の占める割合が増加している(人口に占める高齢者の割合も増えているのだけれど)といった指摘もあります。今回は、一般的な交通安全対策の中で、高齢者向けの対策といったものがあればピックアップしたいということで調べてみました。

高齢者の交通安全といっても、いくつかのケースが考えられます。大きく分ければ、高齢者が歩行者の場合と運転者(自動車、自転車等乗車)の場合の2通りが考えられる筈。死亡事故の統計上はほぼ半々的であるようです。それぞれのケースで、高齢者側の対策と高齢者でない側(あるいはインプラ)の対策がありえるので、ここでは4通りの組み合わせに分類することにいたしました。

  • 高齢者が歩行者の場合:高齢者側の対策
  • 高齢者が歩行者の場合:高齢者でない側の対策
  • 高齢者が運転者の場合:高齢者側の対策
  • 高齢者が運転者の場合:高齢者でない側の対策

最初に高齢者が歩行者の場合を調べてみます。まず高齢者側の対策です。具体的に

高齢歩行者側で準備できる対策装置としては夜間の視認性を高めるための反射材

くらいしか見つけることはできませんでした。実際、統計上は夜間の事故が過半を占めているようなので反射材は「暗い夜道」に対する有効な対策ではあると思います。また調べてみると、携帯、装着に便利なように実にいろいろな形状の反射材が商品化されていることが分かります。しかし、昼間や夜間でも明るい市街地、あるいは相手が車両ではないなど反射材が対策にならないケースもありえます。反射材以外は、「交通ルールの厳守」「身体、認知機能の衰えを考慮に入れた行動」「一般的な安全確認」を呼びかける「心の面」での対策のみが目出ちます。装置、ましてや電子デバイス応用などは見当たりませんでした。分かっていても、行動できない、とっさに判断できない、といった特質から「気を付けましょう、守りましょう」以上の具体的サポートが何かあればと思うのですが、現時点では何か具体化できていないように思われます。

次に高齢者に対する側の対策をみてみます。これは、相手を歩行者、自転車、自動車、インフラの4つに分類してみました。

高齢の歩行者に対する歩行者

歩行者と歩行者の衝突事故は、通常の交通事故の範疇にはならないかもしれませんが、移動中の事故には違いありません。身体機能が低下している高齢の歩行者に対する他の歩行者との衝突事故は都市部の横断歩道などで発生がみられる問題です。想定されるのは、スマホ等による前方不注意による接触/衝突や、キャリーバック等のひっかけ等が原因の高齢者の転倒事故です。ちょっとしたスリップでも高齢者には骨折等の重篤な問題(結果的に寝たきり状態)を引き起こす場合があるので、危険度は低くないと考えられます。ざっと調べたところでは、歩行時のスマホ不使用やキャリバック使用時の注意などの「呼びかけ」以上の対策は見当たりませんでした。当然、電子デバイスの応用も無しと考えます。歩行者同士の接触事故などを防ぐ具体的な良い方策は今のところないのではないかと考えます。

高齢の歩行者に対する自転車

何例か、高齢歩行者に対する自転車衝突の重大事故がニュースになっているとおり、このカテゴリは交通事故として注目があつまっています。その結果、自転車保険などの運転者側の備えの部分では進展しているのですが、安全対策としては、運転者への「呼びかけ」などの意識を高めるような対策であり、装置を使って安全対策を行うといったものは見当たりませんでした。当然、電子デバイスの利用も見当たりません。ただ、自転車に関しては自転車搭載レーダーといったものも存在するので、ハードウエア的な対策も不可能ではないと思うのですが、現状のレーダーは、サイクリストなど向けで、後方からの自動車の接近を検知して知らせるもので、前方、速報などの歩行者安全対策の装置ではありません。

高齢の歩行者に対する自動車

このケースでは特に高齢者にこだわることなく、自動ブレーキその他の安全装備(当然電子デバイス応用)が各種使われているのはご存知の通りです。ここだけで大きな分野なので本稿では割愛させていただきます。

高齢の歩行者に対する交通インフラ

交通インフラというのは、例えば踏切であったり、信号機であったりします。それらで高齢の歩行者に対して何らかのケアをしようとするものです。これに関しては、既にいくつか事例、研究などが存在するようです。こちらは別稿で取り上げさせていただく予定です。

 

高齢の運転者側の対策

高齢の方が運転する場合の危険が問題となっています。高速道路の逆走、アクセル、ブレーキ踏み間違えなど大事故につながったケースが報道されているためだと思われます。これに対する対策としては、運転免許の制度的なものから、いろいろな取り組みがなされています。もっとも古くから存在する「ハード的」な対策といえば、

高齢運転者標識

でしょう。「ぺたっと」貼り付けて、この車は高齢者が運転しているのだぞと知らせるあれです。

当然、このケースも前項同様、特に高齢者に限定されない自動ブレーキその他の最新の車載安全装備の利用が主となると思います。しかし、最新の設備を備えた車ばかりとも言えません。

年式の古い車でも後付けで追加できる安全設備

が結構存在するようです。それらは、特に高齢者向けに限定された設備ではないのですが、かなり意識した安全装備であるようです。ほとんどが電子デバイス応用。列挙すると、

  • オーバーアクセルキャンセラー(OAC)
  • ブレーキオーバライドシステム(BOS)
  • ワンペダル
  • 衝突防止補助システム
  • レーンキープアシスト機能付きドライブレコーダー
  • 安全・安心運転サポート機能つきカーナビ

ブレーキ、アクセスの踏み間違え事故の報道が相次いだ時期がありました。そこで注目されたのが、上記のような安全装備ではないかと思われます。オーバーアクセルキャンセラーは、アクセルの過度の踏み込みを検出して急発進を防止するシステムです。ブレーキオーバライドシステムは、OACと一体化されているケースが多いようですが、ブレーキ、アクセスの同時踏み込み時、ブレーキを優先するもの。またワンペダルは、ブレーキとアクセルを1つのペダルとそれに取り付けられたバーで操作できるようにするもので、アクセルはブレーキと異なりる方法で操作することになる上、基本、ブレーキの上に常に足が乗るようになるためアクセスの踏み間違えが起こり得ないようにするものです。これは装置としてはメカ式。

衝突防止補助システムは、新車に搭載されている自動ブレーキの検出機能部分を後付けしたような形のシステム。衝突の危険のあるような車間距離になると警告などしてくれるもの。レーンキープアシスト機能付きドライブレコーダーは、ドラレコに、一部の新車に搭載されている車線キープ機能の警告を盛り込んだもの。安全・安心運転サポート機能つきカーナビは、交通標識などを音声等で知らせてくれるとともに、逆走などを警報してくれるもの。

こうして見ると、車載型の機器、つまり高齢者が運転する場合の対策装置は、完璧とは言えないものの探せばいろいろあるのに対して、高齢者が歩行者の場合の対策は反射板程度、受動的かつ限定的であることが分かります。高齢者が歩行者の場合の対策は個々の歩行者では対策し難い面がある反面、主に市街地での問題であるので、インフラ対策が適合しやすいように考えられます。

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