帰らざるMOS回路(6) M1KとAnalog Discovery2

JosephHalfmoon

本サイトでは、何か「波形」を測定するというとDigilent社のAnalog Discovery 2をよく使っておったのです。ところが、最近、本シリーズではAnalog Devices社(たまには正式名称書かないと)のADALM1000ばかり使わせていただいております。この2つのお道具、似ているところもいろいろあるのでありますが、違う部分も沢山あります。今回は、本シリーズの視点で「違い」をまとめておきたいと思います。

ADALM1000(アナデバ社の呼び方にならい、以下M1Kと略します)とDigilent社のAnalog Discovery 2 は、どちらも、低価格な

PCにUSB接続して使う簡易オシロみたいなもの

に見えます。ぶっちゃけプロ向きの本格的な計測器(当然お高い)じゃないのだけれど、いろいろ使えて嬉しいツール、です。実は出来ることも似ていて、今回は同じことを両方でやってみたいと考えているのです。しかし、決定的な差というものもあります。それはサンプリング速度。

  1. Analog Discovery 2は100Mサンプル毎秒
  2. M1Kは100kサンプル毎秒

プロ向けのツールのサンプリング速度に比べたら100Mサンプル毎秒は「可愛いもの」ですが、それでもマイコンの周辺回路などを取り扱うのであれば、「高速な差動シリアル」などを除けば結構活用できる範囲は広いのではないかと思います。実際、屋外の実証実験みたいなもので回路がトラブったときに、この手の小さな簡易オシロ1つ持っていると、ノートPCに取り付けてその場で問題を解決できることも多いと思います。重宝。

それに対して100kサンプル毎秒というのはかなり遅い。少なくともマイコンの周辺回路には使えますまい。たとえばI2Cバスの速度でも100k~400kあるので、間に合いませぬ。ですから、勝手な見方ですが、

マイコンで遊ぶならAnalog Discovery2

です。しかし、M1KにはM1Kならではの「良いところ」があるのです。(勿論、お値段がお安いという点も一つですが)

実際、前回「弁明」した醜い抵抗を挿入したMOS-FET回路を使って構成したCMOSインバータのVIN-VOUT特性をM1KとAnalog Discovery2の両方で測って考えていきます。まずは、M1Kでのテストの構成から。

  1. 電源は5V
  2. 入力信号VINにはCH.Aをつかって100Hzの三角波(0~5V振幅)を与える
  3. 出力信号VOUTをCH.Bで電圧測定

こんな設定をした実回路はこちら。

たった4端子を接続しておしまい。ソフトウエアの設定も簡単。CH.AとCH.Bの設定画面で上記のとおりに設定をし、後は、XYプロット表示を呼び出してRUNすれば、このとおり。Alaha氏に怒られた醜い抵抗によって「なだらかに」立ち上がり、立ちさがる様子が手にとるように観察できます。

同じことをAnalog Discovery 2でもやってみましょう。接続はこんな感じ。なにか接続本数多い感じがするんですけど。。。

接続本数の多さは、ソフトウエアの設定画面でも確認することができます。

  1. Suppliesタブ、V+の電圧を+5Vに設定し、V+をイネーブル、電源全体もON
  2. Wavegen1タブ、W1の出力波形を100Hzの0~5V三角波に設定する
  3. Scope1タブ、スコープCH1を入力波形VIN、スコープCH2を出力波形VOUT設定

3個のタブを設定するのですが、3個のタブの機能は、それぞれ別な端子にアサインされていますから、その分信号が増えます。(なお、Analog Discovery2のオシロ端子は「差動」だということがマニュアルに書かれているので、ことさらCH毎プラス、マイナスの2端子を接続しています。この系ではGND共通なのですが。)

3タブ設定した後で、見慣れたAnalog Discovery 2のオシロ画面で観測するのですが、そこで鼻薬をひとつ。

ViewメニューからADD XYする

です。すると、オシロ画面の右側に、ほらね、VIN-VOUTプロットが出力されてまいります。

ちょっと、見ずらい?でもま、同じ波形ですよ、見た目。

こうして書いてくるとAnalog Discovery 2の方がメンドイ感じになりますが、裏返してみれば、

Analog Discovery 2の方が、痒い所に手が届く

個別設定ができるとも言えます。それに対してM1K最大のアドバンテージは、上記例では使えていないのですが、

電流測定可能、信号電流源組み込み済

という点じゃないかと思います。Analog Discovery 2で電流が測れないわけじゃないのです、

自分でシャント抵抗準備して、電圧-電流変換の定数決めておければ

電圧は測定できるのです。また、測定した電圧を式に入れて「変換」することもできます。だから、CHの1本を電流用にして、電流測定のためのシャント抵抗での電圧降下を測れば電流を求めることは可能な筈(私は面倒なのでやってません。)しかし、低抵抗値で精度の高い抵抗を用意し、なんらかの事前測定で抵抗値を決めておく必要がある、と。その辺考えると、

買ってきたら即電流測定可能なM1K

は、楽だ、とても。I-V特性とか、デバイスのDC特性を測るときは、DCなんだから実際にはとても「遅い周波数」でグラフを描かせればよいわけで、サンプリング周波数の上限など気になりません。周波数の上限の制約を踏まえた上で、電圧と電流の関係を「知りたい」用途ならば、M1Kは役に立つと思います。

ついでにいろいろ役に立つ、というわけで、M1K用にソフトウエアをセットアップするとデフォルトでデスクトップ画面に置かれるお道具のアイコンの数々をキャプチャしておきます。なお、左下は、アナデバ様(旧リニアテクノロジー)の偉大なアナログツールLTspiceのアイコンです。M1Kを使うならば「併用」するでしょ?

今のところ

Alice M1K Desktop

のごく一部の機能(時間画面とXY画面のみ)しか使えていないので、ボチボチと各ツールについても調べていきたいと思います。なかなか穿りがいのあるツールじゃないかと思います。

GW期間はこれだね。ほんとか?

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