定番回路のたしなみ(44) 昔は弱かった?CMOS「異なる電源使用時の安全対策」

Joseph Halfmoon

大掃除で出てきたシリーズ第2弾?であります(第1弾はこちら。)東芝の鈴木八十二先生と言えば、初期のCMOSデバイスの世界の大立者、そのころCMOS始めた「若者」は先生の著書を皆拝読していたとかいないとか。画像を掲げましたのは「CMOSデバイスの徹底入門」1980年発行、産報出版であります。今回はその図2.18とな。

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当時の「若者」もいまや忘却力の年寄デス。思い起こせば当時のCMOSは「弱っちい」デバイスとして「有名」でした。直ぐに静電破壊を起こすし、ラッチアップとか厄介な問題もあるしで取り扱いは慎重にという感じ。その中で、異なる電源の回路の間をまたぐ信号の取り扱いも注意点の一つでした。問題をかいつまめばこんな感じ。VDD2OFF

 

左の回路の電源はVDD1、右の回路の電源はVDD2、GNDは共通であります。VDD1もVDD2もとりあえず5V電源としておきます。その電源投入時。VDD2の電源がまだ立ち上がっていないのにVDD1がしっかり立ち上がってトランジスタM3からハイを出力したらどうなるか?右側の回路には入力保護ダイオードがついてるので入って来た電圧を上記のような経路で「逃がそう」としてくれるはず。しかし、D1の許容電流はさほど多くもなく。また、出力側のM3が流し出すことの電流も多くなく。上記のような「短絡」状態ではM3とD1に過大な電流が流れて破壊にいたる、と。

そこで図2.18「異なる電源使用時の安全対策」として掲げられている対策(定番回路だね)が以下のようなものであります。Rinserted

「電流制限抵抗」R1を挿入しておくと。この抵抗を挿入することで例えVDD2がまだ立ち上がっていないとしても、黄色のルートで流れる電流は抵抗で制限されるのでM3もD1も壊れない、という対策っす。抵抗の値について1か所引用させていただきます。

入力保護回路の電流容量最大定格値が10mA位ですので、10倍の安全係数をとって、1mAとなるように設定します。

5V電源ならダイオードのところの電圧降下分もあるし、4.7kΩの抵抗挿入すればお教えを守れるんじゃね。といことで今回実験では4.7kΩとしてみました。

以下に東芝様のTC74HC04AP(インバータ)の絶対最大定格を引用させていただきます。ToshibaSPEC

 

先生の1980年の御著書では最大10mAと書かれていました。74HC04AP自体かなり古い石ですけど、一世代?経過すると相当に良くなっている?こちらは20mAですな。それに出力電流(M3流れる方)も最大25mAだし。まあ、4.7kΩで制限したら超安心?(当然信号の伝わる速度は遅くなるケド。)

現物回路でやってみる

まずは2個の74HC04APの両方に同時に電源入るようにしてあるノーマルなケース。

右のスイッチを倒すと右のインバータにロウが入力されハイが出力されます。それが伝わって左のインバータ2段接続からハイが出力されてLEDが点灯します。こんな感じ。

一方、右のスイッチを倒さないと右ハイ入力でロウ出力、そして左ICもロウ出力です。LEDは点灯しませぬ。PWR_ON_LED_OFF

 

さて左のICの電源に接続しているジャンパ線を取り除いてみました。今や左のICは電源ナシっと。しかし、右のICからハイ出力してみると、こんな感じ。NOPWR_ON

 

おっといけない、電源もないのに先ほどと同じ動作(ただしLEDの光は鈍いけど。)をします。右のスイッチに応じて点灯、消灯。。。

2個のICの間を流れる電流をテスタであたってみました。NOPWR_ON_current

CMOS-IC間の信号線なのに電流ながれとりますなあ。右のICの出力端子から左のICの入力端子のダイオードを介して「電源供給されちまっておる」です。まあ、お教え通り電流制限抵抗を挿入してあるので破壊はしないと思うけど。正常ではない動作モードっす。ヤバイよ。

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