定番回路のたしなみ(45) 素朴なRESET回路、リセット期間 500μsは確保してね

Joseph Halfmoon

単純なロジックにリセットかけるのであればクロック信号「数発分」の期間でこと足りるハズ。しかしマイコンのパワーオン・リセットのときは結構長いRESET期間が要求されることがあります。「レトロな」シリーズで現在取り組み中の8085の場合最低500μ秒。レトロだから長いわけでなく現代のマイコンでも長いものは長いと。なんでだ?

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パワーオン・リセットの事情

「レトロな」8085でも、電源が既に投入されて実行中に再度RESETかけるといったケースでは、たかだか3クロック期間で済むみたいです。しかしパワーオン・リセットの場合を読むと、電源電圧が既定の電圧に達した後、500μ秒はRESET期間を確保してね、と書いてあります。長いです。なんでじゃ?

いにしえの8085は、太古の技術NMOS(現在のチップ共は普通CMOS)で製造されておるのですが、バック・バイアス・ジェネレータというものを搭載してます。MOSデバイスのサブストレート電圧を生成するための「DCDCコンバータ」であります。現代のCMOSならばNチャネルMOSトランジスタのサブストレート電圧は0V(GND)ね、で済むのですが、8085の場合 -2V が必要だったみたい。N-MOSはね、エンハンスメント・トランジスタだけでなく、デプレッション・トランジスタとか複数スレッショルドを併用。かのインテルHMOSなどは4種類使っていたとかいないとか。。。DCDCコンバータを内蔵できなかった第1世代のNMOSプロセッサ8080の場合は外から負電源を貰うしかなかった。でも8085はバック・バイアス・ジェネレータの集積のお陰で5V単電源にできたっと。とても使いやすい。その代わりバック・バイアス・ジェネレータが安定して-2Vを発生できるようになるまで500μ秒は待ってね、という感じ。

実は現代のマイコンの方がオンチップに集積したDCDCコンバータに頼るケースは多いと思います。外からはIO電圧3.3Vを貰っているけれども、内部のロジックは1.8Vとかそれ以下で動いているので内部で低い電圧をつくらにゃならん、とか。LCDパネル(複数の電圧を組み合わせて駆動する必要あり)の駆動回路のために多電圧を発生できる電源必要だったり。そういう奴らは瞬間的に起動できるわけではなく時間がかかります。またモダンなマイコンは外付けクロック源無でも内蔵発振器で動作可能なことが多いですが、そいつらも発振が安定するまで時間がかかると。まあ、モダンな奴らは自分で安定時間を確保できたりもするのだけれども。

そういったマイコン毎の事情があり、パワーオン・リセットのミニマム時間が決まっておるようです。

素朴なRESET回路

実は、過去回で何度か「素朴でない」RESET回路はやってます。

部品屋根性(58) もうすく合併、リコー電子デバイス、R3111電圧ディテクタ

部品屋根性(59) ルネサス、M51957B、電圧システムリセットIC

そういった専用デバイス使えば「大船に乗った気持ち」でRESET掛けられるのですが、まあ、チョロイ設計だとそうにも行きませぬ。抵抗1本、コンデンサ1本で時定数を作ってRESETかけるのが定番回路。手動のRESETスイッチも欲し得ればコンデンサとパラにスイッチ1個つければ良いっと。今回はそんな定番回路を8085用のRESET回路風味でたしなんでみます。

まずはシミュレーション

シミュレーションなど不要な単純回路ですが、回路図を描くついでにシミュレーションしてみました。手動でスイッチ押した場合をシミュレーションしてみます。シミュレータはアナログデバイセズ社のLTspiceであります。回路はこんな感じ。RESETsw

上記回路のシミュレーション結果が以下に。緑がスイッチをトリガしたところ、赤がRESET信号の電圧波形です。ロウアクティブの信号なのでロウに落ちている期間を確保したいわけっす。RESETswSIM

8085の場合、RESET端子のDCスペックは普通の端子と異なっており、ヒステリシス付きです。よって「だらだら」と電圧上がってもカタカタすることはありませぬ。通常の端子では0.8V以下でロウと判定され、RESET端子では2.4V以上だとハイ判定です。上記のグラフをみると、どうころんでも500μ秒くらいのロウ幅は確保できるっしょ(電源がスッパリ立ちあがる前提。だらだらだとマズイかも。そういうときはRESET-IC使ってね?)

実機で測定

後で使う予定なので、上記RESET回路をブレッド・ボードに差し込める小さな「ブレイク・アウト」ボード風にハンダ付けしました。老眼の目に辛いチマチマした工作。PSW_Reset

上記の回路の出力波形が以下に。waveformLong

およよ、約239msとな。とっても長いのでないかい?それもそのはず、パラで入っているスイッチを押す場合、人間がスイッチを押している間RESET信号がアクティブになり続けるためです。上記のほとんどは人間(自分)の反応時間。

年寄が反射神経を振り絞ってスイッチを短く押すとこんな感じ。waveformShort

まあ、どうひっくり返っても500μS以上は確保できそうでしょ。

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