連載小説 第140回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICの営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、日本勤務中。電子デバイス業界の勢力図は大きく変化していきました。台湾や韓国などの新興国が台頭してきたからです。我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)、そして日本の産業はどうなっていくのでしょうか。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第140話 忘年会は何度でも

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の22年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)を販売しています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て日本勤務中。家族はラブラブですよ。うふっ。世界はITバブルの真っ盛り。半導体の売上げもサイコー!だったのですが、20世紀と21世紀あたりを境にして状況は変化していきました。

 

2001年の年末を迎えました。

私は海外営業部のオペレーション担当マネジャーとして、日々の業務に明け暮れていました。

トム君は東京IC営業Gの課長さんとして、半導体の売上げ確保に奔走していましたが、年度売上げ計画には到底及ばない状況で、かなり苦労していました。

工作君はというと、特定顧客を担当する課を任されていたので、殆どは携帯電話向けに液晶表示体を販売する仕事になっていました。

それぞれのフィールドでの業務になっているので、同期3人は仕事上は殆ど接点がなくなっていましたが、しばしば私的な会合は行っていました。その会合とは、そうです、ビールを飲む会です(笑)

「もしもし、トム君?」

「ハイハイ、舞衣子さま」

「いよいよ年末だよね」

「ハイハイ、あと1週間で2001年も終わりですね」

私は、お昼休みにトム君に電話してみました。因みにその頃の主要通信手段は内線電話か携帯電話で、現在のようなSNSではありませんでした。社内メールや携帯電話でのメールという手段もありましたが、まだ電話が主流だった頃です。

「それでさあ、トム君、つい先週、第1回忘年会をしたような気はするんだけど、どうかしら、第2回忘年会をするっていうのは?」

「素晴らしいアイデアだと思います、舞衣子さま」

「よろしい。それでは、工作君に連絡をとって、日時場所を設定してちょうだい」

「ハハ」

「因みに、私、今日がいいんだけど」

「え、今日?」

「いいじゃん、急に飲みたくなっちゃったんだもん」

「なんだよ、いきなりだなあ、舞衣子」

「何よ、タメ口になって」

「だって、日時設定しろとか言っといて、でも今日がいいとか言うんだから」

「都合悪いの、トム君?」

「いやそういう訳でじゃないけど」

「じゃ、いいじゃん」

「でも、工作が都合いいか分かんないぞ」

「いいよ、そん時はトム君と二人でも」

「いいのか男女二人で? 俺は妻帯者だぞ」

「アハハ、何言ってんのよ、トム君、頭おかしいんじゃないの? 私だって夫帯者だし

「アハハ、そうでした」

「そもそも、トム君、改めてお聞きしますけど、Marital statusとBeerと関係あるわけ?

「あまり、ないかと・・・」

「そうでしょ。私たちの人生において、仕事や用事がビールに優先する事はあっても、結婚してるかしてないかが判断基準になった事はなかったわよねえ」

「失礼しました。そうでした(笑)」

「しかも、トム君はご結婚2回目でしょ(笑)」

「アハハ、そうだよ、舞衣子。でも、それって関係あるのか?」

ないよ

「なんだよ、それ」

「うふ」

「言っとくけど、2回目だが、特に不便は感じてないぞ(笑)」

「それは、ようございました(笑)」

「アハハ。で、何だっけ?」

「さっさと工作君に連絡とって時間と場所を決めて」

「あ、そうだな」

19:00に駅のあそこの店でいいわよ」

「何だよ、もう時間と場所決めてんじゃんか、舞衣子」

「いいでしょ、忘年会なんだから」

「忘年会じゃなくても、その調子だろ」

「ま、とにかく、3人で集まりましょ」

「へい、わっかりやした~、舞衣子さま」

という電話での会話がありまして、年末も押し迫った日の夜、第2回忘年会は決行されたのでした。

かんぱ~い

「かんぱ~い」

「工作君、仕事は順調?」

「うん、まあ、色々あるけど、液晶の受注はできてるよ」

「携帯電話だもんね。仕事がなくなる事はなさそうね」

「いいなあ、工作。俺なんか扱い品目が半導体だけだから、今年度の売上げ計画大幅未達まちがいなしだよ」

「富夢の課の計画ってどのくらいなんだ?」

333億円だよ。東京タワーだな」

「そっか、それで売上げはどのくらいいきそうなんだ?」

「それがさあ、今年はボロボロで、200億円いくかどうかなんだよ」

「おい、そんなに未達なのか」

「ああ、あまりの落差でビックラポンだよ」

「それはキツいな」

「ま、計画は前任の坂上課長たちが作ったんだけど、去年の勢いだと、そのくらい見込んだのも仕方ないかなって感じなんだけどな」

「そうか。でも、電子部品は需要の波を読まないとな」

「まあな」

トム君は4月に東京IC営業Gの課長として国内営業へ異動したので、日本での営業活動の経緯はあまり分かっていなかったかも知れませんが、前任からかなり背伸びした計画を引き継いだ形になってしまったので、なかなか辛い状況にあったようです。

「ねえねえ、二人とも、今日は第2回忘年会なんだから、とりあえず忘れちゃいましょ、売上げの事は」

「ま、それもそうだな」

「そうだね。そうしよう。ありがとう、舞衣子」

「やだ、工作君、何よ、急にありがとうだなんて」

「いや、最近、液晶の仕事がバタバタしてたから、今日集合できて良かったと思ってさ」

「俺も売上げ上がんなくて、まいってたんだよ。ありがとう、舞衣子」

「良かった、二人にそう言ってもらえて。じゃあさあ、年明けたら、新年会もしようよ」

「お、いいね」

「そうしよう」

夏のビールは最高だけど、冬のビールも美味い!などと言って、私たちは改めてビールで乾杯し、同期3人での会合は順調に進んでいきました。

ひとしきり飲んで食べて笑ってから、あまり遅くならにようにと自制心も働かせつつ、年明けの17日(月)仕事始めの日にまた会おうと約束して散会しました。

しかしながら、新年会を予定どおり開催する事はできなかったのです。

その顛末はまた次回に。

 

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