連載小説 第79回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。運命の人、倫ちゃんと結婚して、仕事も生活も半導体事業も絶好調ですよ。1994年になりました。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第79話 ISO9000シリーズ

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の14年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。運命の人、倫ちゃんと結婚して、仕事も生活も絶好調です。半導体事業も絶好調です。

 

「ねえ、倫ちゃん

「な~に、舞衣子?」

「あけまして、おめでとうございます」

「お、そう言えば、今日は元旦だねえ。Happy New Year ! だね」

「Feliz año nuevo ! だね」

「ボクたちスペイン語もかなり話せるようになってきたねえ」

「Si, Muy Bien !」

私の1994年はメキシコシティからサンノゼへ帰る日のホテルで始まりました。まだ少し、だらだらしていたい雰囲気の中で、ぼんやり窓の外を眺めると新年の光があちこちに満ちあふれているのが分かりました。さあ、私も支度しなくっちゃ。

朝食を済ませてから、一週間お世話になったステキなホテルをチェックアウトし、タクシーでささっと空港に到着。フライトの遅れもなく、時間通りに飛行機へ乗り込みました。倫ちゃんと仲良く機上からメキシコシティ空港の様子を眺めながらテイクオフの時を待っているのはとてもハッピーな時間でした。移動にはなんだかんだ朝から晩までまる一日かかりますが、往復に一日ずつかけても、行ってみる価値のある所だと思いましたね。

同じ頃、トム君とエディさんはアメリカ荒野の旅の最終日で、ベイカーズフィールドからの移動中にWascoという殆ど名の知られていない街の片隅にパブリックゴルフ場を見つけたので、新年早々ゴルフをしたそうです。さすがに真冬なので、カリフォルニアとはいえ、それなりの気温ですが、元旦から寒い中ゴルフをするとプロ並みに上手くなると信じて、今年は頑張る!と 「Wascoの誓い」 というのをしたそうです。しかし、その後二人がスゴく上手くなったという話は聞いた事がありません(笑)。

アメリカの新年は、1月1日はお休みですが、翌日の1月2日が仕事始めです。その分、クリスマスからはずっと休みなんですけどね。私と倫ちゃんは夜になってようやく家へ帰りつきました。明日からお仕事です。

さて、1994年といえばどんな年だったでしょうか。Windows95が出る前の年(笑)?

世界の歴史上、画期的な出来事でいえば、南アフリカでネルソン・マンデラさんが黒人初の大統領になった年ですね。その後、2009年になって、アメリカでもバラク・オバマさんが米国で黒人初の大統領になるのですが、それより随分前の事でした。様々の国で民主化や人権尊重の動きが進んでいきました。

一方、日本では、人権とかいう以前のレベルのぶっそうな事件が起きていました。6月に起きた松本サリン事件です。オウム真理教とかいう盲信的発狂的宗教団体が罪の無い人々を毒物で殺害するという恐ろしい事件でした。何故に人間が同じ人間に対してこのような事をできるのか理解できませんが、実際にそのような事件が起きてしまい、人々を震撼させたのでした。翌年にも更に酷い事件を起こすのですが、それはまたお話する事としましょう。

さて、この頃SS-Systemsで新たな取り組みとして始めたのはISO9000活動でした。業界の中で注目されてきたのが、ISOをもとにした品質マネジメントシステムです。ISO9000では、「品質管理をするには、まずは業務標準を明文化してね」と言われていました。確かにSS-Systemsのような歴史の短い組織にしてみると、業務に一応のルールはあるものの仕事のやり方は人それぞれで、何かしらの業務スタンダードが明確になっていた方が事業はミスなく進むであろう事は容易に想像できました。

ISOとはご存知の通り、International Standard Organization(国際標準化機構)の略で、1947年に設立され、スイスのジュネーブに本部を置く非政府機関です。製品やサービスの規格を世界で統一化する事が、安全で信頼性が高く、質の高い製品やサービスの創出に寄与するという考えに賛同する大多数の国が加盟しています。

例えば、ネジの大きさが国によって違うと世界共通では使えなくなります。しかし、加盟国の同意によって標準化ができれば日本でもドイツでもインドネシアでも同じサイズのネジが使えるという事になります。

例えば、皆さんがお持ちのVisaカードって多くの国で使えますよね。海外旅行する時にこんなに助かるカードはないとうくらい、色々な場面で活躍してくれます。しかも、街角のキャッシュディスペンサーにVisaカードを入れればキャッシングもできたりします。Visaカードだけでなく、Masterカードなども同じです。銀行のキャッシュカードもそうですね。

それに、クレディットカードも銀行のキャッシュカードも何故に同じ大きさなの? そうです。これもISOで規格が決まっているからです。もし、大きさが違っているとカードが挿入できないですしね。カードの読み取り機だって、無駄に多くの種類が必要になってしまいますしね。

現代社会では、ネジの事もカードの事も当たり前に感じているかも知れませんが、長い時間をかけて、多くの国が標準化を進めてきたという歴史に基づいている訳です。ISOの恩恵です。

ま、そんな訳で国際標準は意味を持っている訳ですが、その頃、製品の標準化だけでなくマネジメントの標準化という事も注目されるようになってきていました。マネジメントの中核をなすのが品質マネジメントシステムです。

そこで現れたのが、ISO9000シリーズでした。SS-Systemsはモノを製造する会社ではないので、品質管理といっても何をするの?という素朴な疑問はありましたが、業務の標準化を図る事で仕事の品質を向上させ、組織全体をレベルアップできるという発想のもとで、取り組んでみる事になったのでした。それに、何てったって、かの権威あるISO様がそう仰ってるのですから、やってみましょう、という雰囲気もありました。まあ、実のところ、本社のサイコーエジソン株式会社から、やって、と言われたからというのが、本当のところのようでしたが(笑)。

SS-Systemsの内部にはその責任者にマリアさんが指名されて活動を始めていました。マリアさんが言うには、サイコーエジソン株式会社の本社にISO9000を推進する部門ができており、そちらから指導をもらいたいというので、Liaisonの私とトム君がサポートに入る事になりました。

「役に立ちそうな事はできるだけ何でもやります」的なリエゾン部門方針に従って、引き受けたのですが、これって結構大変かも?

 

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